201901/08

「世界で一番美しい夜景」と言われるボリビアのラ・パス [海外旅行 ボリビア]

キリキリ展望台から見たラ・パスの夜景

キリキリ展望台から見たラ・パスの夜景

南米にあるボリビアという国を知っていますか? 国の大半はアンデス高地にあり、標高3650メートルにあるラ・パスは世界で最も高い場所にある首都です。人口は約76万人ですが、隣接する人口約83万人の都市エル・アルトとくっつき、大きな都市圏を形成しています。さて、このラ・パス、南米を旅している旅行者たちの間では、「世界で一番美しい夜景」と言われています。香港、函館、ナボリ、モナコ…。夜景が美しい都市は世界に数多くありますが、なぜ高層ビルも少ないこの都市がそう言われるのでしょう。私はラ・パスに着くと、その理由を知りたく夜景を見に行ってみました。

富士山頂の高さにある首都

ラ・パス市内には植民地時代の古い建物も残っている

ラ・パス市内には植民地時代の古い建物も残っている

ボリビアの観光地でもっとも知られているのは、ウユニ塩湖でしょう。その次がポトシやスクレといった植民地時代の世界遺産都市です。今回紹介する首都ラ・パスもそんな歴史遺産が残るコロニアル都市。しかし南米のどの国の大都市もそうなのですが、治安はあまりいいとは言えません。なので素通り、あるいは乗り継ぎで立ち寄るだけという人も少なくありません。そんな訳で私もあまり期待せずにラ・パスを訪れました。

ラ・パスは高低差のある都市で、よく“すり鉢”に形容されます。すり鉢の高いところは標高4000m近く、低いところは3000mほどと市内の高低差が1000m近くもあるのです。基本的にはすり鉢の底にお金持ちが、高いところに低所得の人たちが住んでいます。お金持ちの方が濃い酸素を求めているからでしょうか。しかし近年はすり鉢の内側の土地もいっぱいになり、その縁の上に続く高原台地のエル・アルト(「高地」という意味)にまで、町が溢れています。ラ・パスの空港はこの平らなエル・アルトにありますが、その標高は約4062m。世界でもっとも高い場所にある国際空港と言ってもいいでしょう。

空気が薄い場所ではどうなる?

市内を囲む高台にまで家々がある

市内を囲む高台にまで家々がある

ラ・パスで一番気をつけなくてはならないのは高山病です。もし日本から飛行機を乗り継いで直接エル・アルトの空港に降り立ったとしたら、たいていの人は酸素が薄くてふらふらするでしょう。私は低地から2週間かけて体を慣らしながら登ってきたので、高山病にはなりませんでしたが、空気が薄いのは大変でした。この街は平らなところが少なく、ちょっと出かけるにしても必ず坂の上り下りがあり、その度に息切れしてしまうからです。

よく旅人の間では「ラ・パスには消防署がない」と言われていますが、消防署がないのではなく、酸素が少ないので火事が少ないらしいのです(家が木造ではなく日干しレンガで作られているということもあります)。タバコの火も吸っていないと消えますし、炭酸飲料は気をつけないと、開けた瞬間に激しく泡が出ます。体が比較的慣れてきた私でも、階段を登るのは休み休み。カメラのシャッターを押す瞬間に一瞬息を止めるだけでも、息苦しくなるほどです。なので、ここで走ったり飲酒をしたりはかなりキケンな行為なのです(笑)。

ロープウェイに乗って町を見下ろす

ラ・パスとエル・アルトを結ぶロープウェイからも素晴らしい景色が見える

ラ・パスとエル・アルトを結ぶロープウェイからも素晴らしい景色が見える

私が行ったのは雨が少ない初春で、空気は澄み遠くの雪山もよく見えました。まず町の全景を見ようと、ラ・パス市内と崖上のエル・アルトを結ぶテレフェリコ(ロープウェイ)に乗ってみました。ラ・パス市街の駅から終点エル・アルトまで約500mの高低差を、約10分で登ります。

よく見ると、崖の割れ目に車が挟まっているのが見える

よく見ると、崖の割れ目に車が挟まっているのが見える

出発したゴンドラはたちまち街の上を通過していきます。眼下に見えるのは、すり鉢の縁の貧しい人々が住む地域。治安上、旅行者が立ち寄ることはありませんが、こうして空の上からだとのんびりと人々の生活ぶりが見られます。気になったのは、正面の崖の割れ目に垂直に突き刺さっている車が見えたことでした。崖の上から落下したのか、運転手はどうなったのか気になりました。終点のエル・アルト駅には展望台もあり、ラ・パス市街を見下ろせました。もっとも途中のゴンドラからの風景で、私はすっかりラ・パスと遠くの山々の絶景を堪能していました。

夜景を見にタクシーで

キリキリ展望台から見たラ・パスの夜景。斜面の上までびっしりと家々が続く

キリキリ展望台から見たラ・パスの夜景。斜面の上までびっしりと家々が続く

次はいよいよ目的の夜景です。夜景を見るポイントは2つあります。ひとつは市街を見下ろす高台。もうひとつが、すり鉢の中から周囲を見渡すというものです。上から街を見下ろすというのは他でもありそうですが、街の真ん中から周囲にせり上がっている家の明かりを見るというのは、そうそうないでしょう。ただし問題もありました。ラ・パスの治安は夜になると特に悪くなります。しかしどうしても夜景が見たく、私はホテルで身元のしっかりしたタクシーを呼んでもらい、暗くなってすぐの夜7時に展望台に行くことにしました。

市の中心部のサンフランシスコ寺院付近から、タクシーで約20分のところにある「キリキリ展望台 Mirador Killi Killi」は、ふつうの住宅地に入口がありました。タクシーを待たしてひとりで階段を上り、おそるおそる夜の公園に入っていきます。意外にも、時間がまだ早いためか、家族連れや犬の散歩に来ている人もいて安心しました。香港などの大都市の夜景は、高層ビル群のライトが美しいのですが、ここは違います。すり鉢の縁へせり上がる傾斜にあるのは、どちらかと言えば貧しい人々の住宅で、その一軒一軒の電球が星のように光っているのです。光量が強くないので、写真の見栄えは高層ビル群には負けるでしょう。しかしそこに見える民家の光は、人々の息づかいを感じるような温かいものでした。

 

三ヶ月に渡った南米の旅ですが、ラ・パスの全景は昼夜共に見応えがあるものでした。南米には素晴らしい大自然の風景がたくさんありますが、都市の全景が楽しめたのはここぐらいでしょう(街並みがいいところは他にありますが)。途中で諦めそうになりましたが、やはり無理しても夜景を見に行って良かったと思います。そんな少し心細い思い出と共に、ラ・パスの夜景は自分にとっての“一生モノ” の夜景になりました。あなたにも、そんな“一生モノ” の夜景はあるでしょうか。

前原 利行

日々、自分の興味があるものを追いかけています。音楽、映画、アート、歴史、そしてまだ見ぬ世界の風景や文化…。心に刻まれた一生モノの経験が、自分の最大の財産でしょうか。これからも、まだ知らない出会いを探していきたいと思っています。

前原 利行
この記事を書いた人

この記事を書いた人前原 利行

201811/28

標高3700mの塩原に現れる「天空の鏡」ボリビアのウユニ塩湖で日の出を見る [海外旅行 ウユニ塩湖]

夜明けのウユニ塩湖。鏡張りの水平線に沈むのは月

夜明けのウユニ塩湖。鏡張りの水平線に沈むのは月

数年前に日本で起きた“絶景ブーム”の頃、「死ぬまでに見てみたい絶景ランキング」で、よく1位になっていたのが南米のウユニ塩湖でした。私が記事を書いていたウエブの旅行サイトでも、ウユニ塩湖はもちろん人気上位でした。しかし実際に行く旅行先でもウユニ塩湖が上位かというとそうではありません。なにせ行くには遠く、日本からウユニ塩湖だけ見て帰ってくるだけでも最低1週間はかかります。行きたくてもなかなか気軽に行ける場所ではないのです。しかし行ってみれば、やはりそこにはすばらしい絶景が待っていました。今回はもしかしたらあなたの“一生モノ”の旅になるかもしれない、ウユニ塩湖の日の出を紹介します。

カラッと晴れた昼間は、こんなトリック写真が撮れる

カラッと晴れた昼間は、こんなトリック写真が撮れる

富士山頂と同じくらいの高さにある塩原

面積は日本の約3倍という南米の内陸国、ボリビア。その西側は標高2500m以上のアンデス高地が占めていますが、その南部の標高約3700mの場所に、南北約100km、東西約120kmにわたって広がるのが、世界最大級の塩原「ウユニ塩湖」です。日本では「塩湖」が使われていますが、正しくは「塩原」です。アンデス山脈が隆起した時に海底が海水ごと持ち上がり、内陸に取り残されました。それが長い時間をかけて干上がり、現在のような塩の大平原になったのです。広大な面積ですが高低差はほとんどなく、どこを見渡しても白一色の平地が続きます。

まるで太陽のように月が輝くスーパームーンの夜

まるで太陽のように月が輝くスーパームーンの夜

ウユニ塩湖が人気を集めるようになった理由は?

私は1980年代半ばから世界各地を旅行していますが、90年代のバックパッカーブームの時に旅行者の間でウユニ塩湖の話題が出た記憶はありません。もちろん南米に行く人が少なかったこともありますが、当時はそれほど知られた観光地ではなかったはずです。それが有名になったのは、2010年代に入るぐらいからでしょうか。推測ですが、それには2つの理由があると思います。

まずはデジタルカメラの普及で、誰でも簡単にトリック写真が撮れるようになったこと。フィルムの時代は現像までは仕上がりがわかりません。しかしデジタルならその場で見て調整ができます。比較対象物がなくて遠近感がわからなくなるウユニ塩湖では、その頃からおもちゃを置いてトリック写真を撮るのが流行りだしました。もうひとつがインターネットの普及により、自分が撮った画像を簡単にウエブサイトにあげられるようになったことでしょう。トリック写真が拡散されたほか、「天空の鏡」と言われる、塩の平原に溜まった水が空を映し出す画像も、このころからよくウエブサイトで見かけるようになりました。これがウユニ人気のきっかけではないかと思います。

太陽が顔を出す。水深がほとんどないのがわかるだろう

太陽が顔を出す。水深がほとんどないのがわかるだろう

日本人と欧米人では、見たいウユニ塩湖の表情が異なる?

私は南米を回る旅の途中で、ウユニに立ち寄りました。その数週間前まではブラジルの低地にいたので、ボリビアに入って少しずつ高度を上げて体を慣らしました。人によっては海抜2500mぐらいから高山病の症状が出てきます。私はひどい症状になったことはありませんが、それでも3000mぐらいの高さになると階段を上るのが辛かったり、夜中に睡眠が浅く目を覚ましたりすることもあります。何しろウユニ塩湖は富士山とほぼ同じ高さにあるのです。

ウユニの町は塩原の東端近くにあり、観光へはここを拠点に車で出かけます。しかし着いてから私は、日本人と欧米人では見たい景色が違うことに気づきました。ウユニでは雨季の間、わずかながら雨が降ります。流れ出る河川がなく、またどこまでも平らなので、降った雨は蒸発する前に塩原の表面に薄く広がります。無風の時にはそこに空が映りこむことから、日本では「天空の鏡」と言われている絶景ですが、なぜか欧米ではあまり有名ではありません。むしろ欧米人の観光シーズンは雨が降らない乾季のほうで、干上がった時期に遠近法を利用してトリック写真を撮るのが流行っていました。私が行ったのは乾季でしたが、地元旅行会社は日本人が「天空の鏡」を見たいことを知っており、乾季でも水が溜まっている場所へ行くツアーを出していました。そのツアーに参加してみると、参加者は日本人と韓国人のみ。なぜかこの「天空の鏡」は韓国でも有名なようです。

風が無い時は湖面への写り込みを考えてこんな画像も

風が無い時は湖面への写り込みを考えてこんな画像も

月明かりに照らされた塩原

私が参加したのは、「天空の鏡を見るサンライズツアー」です。出発はホテル朝4時。正直言って無茶苦茶寒いので、完全防寒して行くのがいいでしょう。私は前日に町で、セーター、毛糸の帽子、厚い靴下、マフラー、手袋、サングラスを買い込みましたが、すべて必要でした。ツアー参加者7人が乗った4WD車は町を出て30分ほどで、鏡張りのポイントに着きました。水深は4、5cmしかありません。

その夜は偶然にも、「スーパームーン」と呼ばれる満月がより明るく輝く夜でした。星はほとんど見えませんが、そんな明るい月夜もまた気分が上がります。風の無い穏やかな夜で、月明かりが水面に映り込んでいます。逆に月が出ていない夜なら、満天の星が映りこむのでしょう。

どこまでも続く塩の大地

どこまでも続く塩の大地

ウユニに太陽が昇る

小1時間で空の色がうっすらと青に変わってきました。空の片側はオレンジ色に染まり、太陽が昇ってくる方向がわかります。さっきまで空で輝いていた月は、もう地平線に降りようとしていました。風がなく静止した水面は本当に鏡のようです。車や人影も、すべて対称的に水面に映し出されます。今までの人生で見たことがないすばらしい景色です。しかしとても寒かったことも忘れられません。体は服を着込めばなんとかなりますが、足先の感覚が保温効果のない長靴を通してなくなっていくのがわかりました。仕方なく私は、時おり車の中に避難して休んでいました。

日が昇ると、少し風が吹いてくるようになりました。すると水面が波立ち、もう鏡のようには見えません。鏡張りのマジックが効くのは、風がない間だけなのです。

 

ウユニ塩湖で迎えた朝日は、なかなか体験できないすばらしいものでした。もちろんその後に行った昼間のウユニ塩原、チリとの国境近い高地も同じぐらい素晴らしいものでしたが、寒さに耐えながら刻一刻と色を変えていく鏡張りのウユニは最高でした。まさに「天空の鏡」です。雨季なら大地一面に広がり、もっときれいなのでしょうね。私にとっては、後にも先にも他では見ることがない“一生モノ”の景色でした。

前原 利行

日々、自分の興味があるものを追いかけています。音楽、映画、アート、歴史、そしてまだ見ぬ世界の風景や文化…。心に刻まれた一生モノの経験が、自分の最大の財産でしょうか。これからも、まだ知らない出会いを探していきたいと思っています。

前原 利行
この記事を書いた人

この記事を書いた人前原 利行

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